投稿日: 7月 13, 2024

酒番 多田正樹@めでたし ペアリングレポート(後編)- Report on Sake Pairing Event with Mr. Tada(2/2)

カテゴリー: Event / Seminar, Report, Restaurant

*English follows Japanese. Please click to move.
2024 年 2 月 23 日(土)に、酒番 多田正樹さんをお招きした特別な日本酒ペアリングイベントをめでたしで開催しました。初回は 2023 年 12 月開催、今回はその第 2 回目となります。

まだ時折寒くなる日があるものの、少しずつ春の足音が聞こえてくる晩冬の候。
鮮やかな季節の到来を五感で味わう、料理と日本酒が織りなす 9 皿・8 酒のペアリングコースをレポートします。
前編はこちら


5. 滋味豊かな世界がじんわり広がるペアリング

料理:鹿肉、原木椎茸、自家製 XO 醬
日本酒:玉川 雄町 純米吟醸 2018BY(京都府京丹後市)

コース後半に入ると、少しスピードを緩めて、ゆっくりとしみじみと味わう時間が流れます。

5 皿目では、広島県安芸高田市のニホンジカと東京都青梅市の原木椎茸のローストに、オリジナルの XO 醬を絡めました。

美しい山々に囲まれ緑豊かな安芸高田市は、市域の約 8 割を森林が占め、多彩な植物が生育しています。森林のスギやヒノキなどの枝や皮、木の芽、若草、どんぐりや栗、キノコなど天然の植物を食べてすくすくと育ったシカを、経験豊富な熟練のハンターが仕留めて素早く適切に処理することによって、臭みがなく旨みはしっかりとある美味しい食肉とした「Premium Deer 安芸高田鹿」を柔らかくローストしました。肉厚な春の原木椎茸をジューシーに焼き上げると、ふくよかな香味がたちのぼります。香港での経験をもつシェフは、今回この料理のために、生牡蠣からオイスターソースを、スパイスを炒めてラー油を、葱からは葱オイルを作り、帆立、桜エビ、生ハムなどを用いて XO 醬を手作りしました。

重心が低めで滋味あふれるこの料理に合わせたのは、2 皿目のボタンエビの漬け液としても使用した「玉川」の、雄町米を使用した純米吟醸酒です。2018BY と熟成感も感じられるこちらのお酒に 5% ほどの水を加え、少し柔めた上で、チタン製のチロリできゅきゅっと 50℃ まで温め上げました。緩急をつけて温められることで心地よい上立ち香と複雑な味わいが膨んだ日本酒と、様々な旨みが凝縮された XO 醬とが共に、鹿と椎茸という山の豊かな香味を口の中いっぱいに広げていきます。


6. 上質なシンプルを体現するペアリング

料理:蛍烏賊、筍
日本酒:秋鹿 自営田雄町 純米無濾過生原酒 2022BY(大阪府豊能郡)

6 皿目は、海と山から届きたての春の美味のシンプルなコンビネーション。
春の海からは富山県産のホタルイカ。ホタルイカのそれぞれの部位がきちんと美味しくなるように仕立てて、愛媛県梶田商店さんの天然麦味噌「たつみ味噌」と、和歌山県湯浅醤油さんの「CACAO JANG / カカオ醬」とで、「カカオ香るホタルイカ味噌」を作りました。
春の山からは北九州市合馬の、出たての筍。まだまだ小さく、とても柔らかく、みずみずしく、美しい香りと甘みを湛えています。多めのこめ油で揚げるようにささっと焼き上げて、より一段と香ばしく甘くしました。

「秋鹿 自営田雄町 純米無濾過生原酒 2022BY」は温めると美しいカカオのニュアンスが顔をだすお酒です。錫のちろりで 55 度くらいまで温めて甘く香ばしい風味を出し、急冷させてからお出ししました。シンプルなものこそ上質であるべきだと、美味しく諭されているようなペアリングです。


7. 春の草原のように瑞々しいペアリング

料理:太刀魚、菜花、蜜柑
日本酒:花垣 純米大吟醸 2022BY(福井県大野市)

7 皿目には、目にも鮮やかな色彩が登場。まるで春の野原のようなソースは、ほろ苦い菜の花と蜜柑で作りました。蜜柑の爽やかな甘味と酸味が、野原を爽やかに吹き抜ける風のようです。油を纏って焼かれた菜の花は香ばしくほっくり、3.5 キロサイズの立派な脂の乗った太刀魚はしっとり上品で柔らか。
香ばしくて甘いものたちを、ほろ苦く爽やかなソースが包み込みます。

上品で爽やかな料理に合わせたのは、低温長期発酵でじっくり醸した精米歩合 45% の純米大吟醸「花垣 純米大吟醸 2022BY」。瑞々しい芳香と酸を持ち、清々しい優しさを感じられるこのお酒を、ガラス製のフラスコで42度くらいまで温めて、爽やかな甘味を引き出してお出ししました。


8. 王道の凄みが溶け合う 千穐楽ペアリング

料理:岩中豚、蕗の薹
日本酒:神亀 千穐楽 純米 2002BY(埼玉県蓮田市)

とうとう 8 皿目、ラストのペアリングです。
徹底した衛生管理、リラックスできる飼育環境、栄養価の高い肥料によって、きめ細やかな肉質、美しい脂肪をもつ岩中豚を、水は使用せず、純米酒と醤油と八角と蜂蜜だけでとろっとろの角煮にしました。上質な脂の甘味と旨みが塊に、蕗の薹のコンフィを添えました。コンフィとなることで角が取れた蕗の薹の香りと甘い苦みが、たっぷりとした豚角煮の甘味を引き立てます。

力強いのに優しい、脂たっぷりなのにくどくない、シンプルなのに単純ではない。捉えどころのない凄みがあるこの料理に、多田さんが選んだのは「神亀 千穐楽 純米 2002BY」。前杜氏の原昭二杜氏が、その最終醸造年度(2002BY)に仕込んだ集大成の純米酒をタンク貯蔵した原酒で、16 年の歳月を経て 2019 年に発売された大変貴重なお酒です。あまりにも透明度が高くて覗き込んでも距離が掴めない湖の深淵を探っているような感覚を覚えます。悩ましいほど美しい香り、何層も重なっているのに濁りのない味わいの数々。きっとどの温度帯であっても、それぞれの美味しさがあるであろうこのお酒を、チタンのちろりで 48℃ まで温めました。

奇を衒うことなく、それぞれの王道を貫いたものたちが解けあうことで生み出される唯一無二の香り、味わい、食感、余韻を、ただただ素直に吸収する。そういう幸せがあることを教えてもらいました。


◾️ミルクアイス、スキクイーン、林檎

コースの最後は、ミルクアイスと、ノルウェーのブラウンチーズ「スキクイーン」とすりおろし林檎の香ばしく爽やかな甘さソースで締めくくりました。


今回は少し中華料理のニュアンスを取り入れ、春の到来にワクワクする晩冬の味わいに満ちたコース構成としました。次回は夏真っ盛りの、7 月 20 日と 21 日に開催します。

7 月のテーマはハーブ。
レモンタイム、シナモンバジル、スイートバジル、ローズマリーレックス、フェンネル、様々なミントたち、サラダバーネット、レモングラス、アニスヒソップ、カレープラント、ステビアなど、酷暑に負けず元気いっぱいのハーブのエネルギーを盛り込んだメニューが登場します。

イタリアン、フレンチ、アジアン、様々な料理ジャンルのアイディアにハーブを活用することで、夏の食材たちに新しい美味しさが生まれました。幅広い可能性を持つ日本酒によって、さらにドラマティックな展開となることでしょう。
初めての美味に出逢いに、ぜひお越しください!

日時 2024年7月20日(土) 18時、21日(日) 17時30分
会費 25,000円(お食事・日本酒・税サ込)
定員 各部上限 11席(カウンター7席、テーブル4席)
申込 めでたしの予約フォームから「2024年7月20日」あるいは「2024年7月21日」を指定し、メニュー「7/20・21 酒番 多田正樹@めでたし」を選択の上、必要項目をご入力ください。7月18日24時までご予約をお受けします。
*ご予約の際には、「お店からのお知らせ」「利用条件」をご確認ください。

◾️多田正樹さん (酒番/日本酒とうつわの案内人)
sakeペアリングがまだ一般的では無かった2000年頃より、料理毎に「銘柄」「温度」「酒器」を合わせる『和酒お任せ』のスタイルを開始。 その後、神楽坂『蒼穹』など会席料理店にて酒番を歴任。清閑な空間造りと骨董~現代作家の器での日本的演出を流儀とする。 「飲み手と料理を立て、穏やかに」が、酒えらびともてなしの信条。様々なジャンルの料理人や古美術ギャラリーとのイベントも開催。



◾️五嶋 千裕(めでたしシェフ)
2011年、兄・慎也と共に押上で飲食店をオープンし料理の道へ。2013年京島「ごでんや」、2015年香港へ移り「GODENYA Hong Kong」。日本・フランス・広東料理などの要素をとりいれたコース料理の1皿ごとに1種類の日本酒を温度・温め方・器を変えてペアリングしていくスタイルで話題に。 帰国後は赤坂「sansa」のシェフとしてクラフトビールのペアリングなどを手がけた。2020年、想定外の美味と遭逢するレストラン「めでたし」をオープン。

◾️タイムテーブル
7月20日(土)
17:45 開場・受付
18:00 開始
21:00 閉会

7月21日(日)
17:15 開場・受付
17:30 開始
20:30 閉会

*イベントは開始時間になりましたらスタートします。遅れずにご来店ください。

*ご予約時に、アレルギー食材をお教えください。お連れ様皆様にご確認をお願いいたします。当イベントは特別メニュー構成のため、食品アレルギー内容によってはご予約後にお断りさせていただくこともございます。

*会費は当日ご来店時に現金でのお支払いをお願いします。領収書をご希望の際は事前に宛名のご連絡をお教えいただけますとスムーズにお渡しできます。

*当イベントにおいては、テーブルあるいはカウンターのお席のご希望にはお応え出来ないこともございます。予約ページの設定上、カウンター席でのご予約でも、当日はテーブル席でのご案内となる可能性があります。あらかじめご了承くださいませ。

*ご予約のキャンセルや参加人数が減る場合、代わりの方を見つけていただけますと助かります。ご予約のキャンセル・人数の変更は、2024年7月12日(金)24時までにご連絡ください。それ以降のキャンセルや、ご連絡がない場合は料金の100%をキャンセル料としてご請求申し上げます。


Report on Sake Pairing Event with Mr. Tada(2/2)

On Saturday, February 23, 2024, we held a special sake pairing event with ”SAKE-BAN” Masaki Tada at Medetashi. The first event was held in December 2023, and this would be its second.

Although there were still occasional cold days, the event was held in the late winter when the footsteps of spring could be heard gradually.

This is a report on a pairing course of nine dishes and eight types of sake that evoke the arrival of spring.


■Venison and Log-Grown Shiitake Mushrooms with XO JANG
SAKE : Tamagawa Omachi Junmai Ginjo 2018BY (Kyotango, Kyoto Prefecture)

As we move into the latter half of the course, we slow down a bit to savor the flavors more leisurely.

The fifth course is a roast of Japanese venison from Akitakata City in Hiroshima Prefecture and log-grown shiitake mushrooms from Ome City in Tokyo, coated in an original XO sauce.

Akitakata City is a lush, green area surrounded by beautiful mountains, with about 80% of its area covered by forests rich in diverse plant life. The deer thrive on a natural diet of branches and bark from cedar and cypress trees, buds, young grass, acorns, chestnuts, and mushrooms. Skilled hunters quickly and properly process the deer, resulting in delicious meat that is free of gaminess and full of flavor. This “Premium Deer from Akitakata” is tenderly roasted. The thick, springtime log-grown shiitake mushrooms are grilled to a juicy perfection, enhancing their rich aroma and flavor. The chef, with experience in Hong Kong, created an XO sauce specifically for this dish, making oyster sauce from fresh oysters, chili oil from sautéed spices, and scallion oil from scallions, and using scallops, sakura shrimp, and prosciutto.

To pair with this earthy and flavorful dish, we chose the Junmai Ginjo sake made from Omachi rice by Tamagawa, which was also used as the marinade for the botan shrimp in the second course. This aged sake was slightly softened by adding about 5% water, then quickly warmed to 50°C in a titanium chirori. The sake, warmed with a variation in intensity, released a pleasant aroma and complex flavors that complemented the rich, umami-packed XO sauce, filling your mouth with the robust flavors of venison and shiitake mushrooms.


■ Firefly Squid and Bamboo Shoots

SAKE : Akishika Omachi Junmai Unfiltered Namagenshu 2022BY (Toyono District, Osaka Prefecture)

The sixth dish is a simple combination of spring delicacies from the sea and mountains.

From the spring sea, we have firefly squid from Toyama Prefecture. Each part of the squid is carefully prepared to enhance its flavor, and we created a “firefly squid miso” with a cacao aroma using Tatsumi miso, a natural barley miso from Kajita Shoten in Ehime Prefecture, and CACAO JANG, a cacao soy sauce from Yuasa Soy Sauce in Wakayama Prefecture.

From the spring mountains, we have freshly harvested bamboo shoots from Omba, Kitakyushu City. These small, tender, juicy bamboo shoots have a beautiful aroma and sweetness. They are quickly fried in rice bran oil to enhance their fragrance and sweetness.

Paired with this dish is “Akishika Omachi Junmai Unfiltered Namagenshu 2022BY,” a sake that reveals beautiful cacao nuances when warmed. It was heated to about 55 degrees Celsius in a tin chirori to bring out its sweet and fragrant flavors, then quickly cooled before serving.

The simplest things should be of the highest quality.


■ Beltfish and Canola Blossoms  
SAKE : Hanagaki Junmai Daiginjo 2022BY (Ono City, Fukui Prefecture)

The seventh dish is very colorful.

The sauce made from the slightly bitter canola blossoms and mandarin oranges evokes the image of a spring meadow. The refreshing sweetness and acidity of the mandarins are like a breeze gently blowing through the fields. The canola blossoms are roasted with oil, giving them a fragrant finish. The magnificent 3.5 kg beltfish, rich in fat, is tender and elegant.

This dish combines fragrant and sweet elements with a slightly bitter and refreshing sauce.

Paired with this elegant and refreshing dish is “Hanagaki Junmai Daiginjo 2022BY,” made with rice polished to 45% and fermented slowly at low temperatures. This sake has a fresh fragrance and acidity, and a refreshing gentleness. When warmed to around 42 degrees Celsius in a glass flask, it reveals a refreshing sweetness.


■ Iwachu Pork and Butterbur Sprouts  
SAKE : Shinkame Senshuraku Junmai 2002BY (Hasuda City, Saitama Prefecture)

Finally, the eighth dish, the last pairing.

Iwachu pork, known for its fine texture and beautiful fat due to meticulous hygiene management, a relaxed breeding environment, and nutrient-rich feed, is braised to extreme tenderness using only junmai sake, soy sauce, star anise, and honey, with no water. The dish is complemented by a confit of butterbur sprouts. The softened aroma and sweet bitterness of the butterbur sprouts in confit form enhance the sweetness of the rich pork belly.

This dish is powerful yet gentle, rich in fat yet not heavy, simple yet complex. For this elusive and impressive dish, Mr. Tada selected “Shinkame Senshuraku Junmai 2002BY.” Brewed by former master brewer Shoji Hara in his final brewing year (2002BY), this junmai sake was tank-stored and released in 2019 after 16 years, making it a very precious sake.

This sake is like exploring the depths of a lake with such high transparency that you can’t gauge the distance. It has a captivatingly beautiful aroma and layers of clear flavors. This sake, likely to taste great at any temperature, was warmed to 48 degrees Celsius in a titanium chirori.


The third edition of this event will be held over two nights, Saturday and Sunday, July 20-21, 2024.

Next theme is “herbs”.
Lemon thyme, cinnamon basil, sweet basil, rosemary rex, fennel, various mints, salad burnet, lemongrass, anise hyssop, curry plant, stevia, and more will be featured in the new menu, which is filled with the energy of herbs that are full of vitality despite the extreme heat.

By utilizing herbs as ideas for Italian, French, Asian, and various other culinary genres, summer ingredients have been given a new delicious flavor.
The wide range of possibilities of sake will add an even more dramatic dimension to the menu.
Please come and enjoy the new taste of sake pairing!

Date & Time : Saturday, July 20, 2024 at 18:00, Sunday, July 21, 2024 at 17:30
Fee : 25,000 yen (including meal, sake, and tax)
Capacity: Maximum 11 seats per section (7 seats at the counter and 4 seats at the tables)
Application Please specify “July 20, 2024” or “July 21, 2024” on our reservation form, select the menu “7/20-21 酒番 多田正樹@めでたし”, and fill in the necessary information.


*Please check the “Notice from the restaurant” and “Terms and Conditions” when making a reservation.

投稿日: 7月 12, 2024

酒番 多田正樹@めでたし ペアリングレポート(前編)- Report on Sake Pairing Event with Mr. Tada(1/2)

カテゴリー: Event / Seminar, Report, Restaurant

*English follows Japanese. Please click to move.
2024 年 2 月 23 日(土)に、酒番 多田正樹さんをお招きした特別な日本酒ペアリングイベントをめでたしで開催しました。初回は 2023 年 12 月に開催、今回はその第 2 回目となります。

まだ時折寒くなる日があるものの、少しずつ春の足音が聞こえてくる晩冬の候。
鮮やかな季節の到来を五感で味わう、料理と日本酒が織りなす 9 皿・8 酒のペアリングコースをレポートします。

1. 春らしい料理と搾りたて日本酒の、繊細でフレッシュなペアリング

料理:赤貝 帆立 グリーンピース

日本酒:やまいし 純米吟醸 限定直汲 無濾過生原酒 うすにごり 2023BY(三重県四日市)

暖かくなると続々と発芽し、新しい生命が生まれ育っていくーその源たる「種」でもある、ピカピカ若々しいお豆さんの料理が 1 皿目です。フレッシュなグリーンピースをこめ油で乳化させたソースは、その甘みや香りを味わっていただけるよう、塩だけで味付けしました。そこに瑞々しい食感が楽しいスナップエンドウと、ホクホクとしたそら豆を加え、3 種類の豆が登場します。しっとり弾力のある帆立と、コリコリっとした赤貝のそれぞれの食感、甘さや味わいと、豆たちの青い甘さとが軽やかに混ざり合います。

日本酒は、三重県四日市の石川酒造さんの「やまいし 純米吟醸 限定直汲 無濾過生原酒 うすにごり」2023BY。搾りたてをそのまま瓶詰めした「直汲み」のピチピチとしたフレッシュさと、うすにごりの爽やかさ、心地よい吟醸香のバランスが素晴らしく、そのままでもとても美味しいお酒です。そこを、ガラス製のフラスコで丁寧に 40 度ほどまで温めることによって、このお酒に潜んでいたお米の味わいを引き出します。

素材の繊細さを損なうことなく、程よく温めることによって豆や貝の味わいを優しく広げる、フレッシュな料理とフレッシュなお酒の息のあったペアリングで、コースの幕が開けます。


2. 堂々たる気品と濃醇さのペアリング

料理:ボタン海老 夏越しの「玉川」漬け

日本酒:不老泉 亀ノ尾 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 2023BY(滋賀県高島市)

爽やかな幕開けの次は、インパクトのあるものを。

大ぶりの新鮮なボタン海老を、京都の「玉川」2017 BY の山廃純米無濾過生原酒を、2018 年の夏に常温(=灼熱?)で夏越しさせたお酒と、八角などのスパイスとで作った漬け液で数日漬け込みました。あまりにも魅惑的な香りとその姿に、店内のあちこちからため息が聞こえました。
食しているのは自分なのに、まるで自分が飲み込まれてしまっているかのような、極上のねっとりとした複雑な濃醇さが口中を騒がせます。

優しいお酒では太刀打ちできません。旨口芳醇の代表的な造り手である滋賀県 上原酒造さんの「不老泉 亀ノ尾 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 2023 BY」。経年による熟成感のない、澄んだ厚みのある旨みと絶妙な酸味、どっしりボディの頼もしい存在感のあるお酒です。錫のちろりで60度くらいまで温度を上げてしっかりと香味を引き出し、冷まして落ち着かせてから平盃でお出しします。

堂々たる気品を纏った濃醇でパワフルな食と酒とが自らの口中で一体化していく、背徳的な愉悦のひととき。


3. 賑やかな味わいを上手く落ち着かせるペアリング

料理:鮑とコンテチーズの亀の尾リゾット

日本酒:神雷 青ラベル 千本錦 特別純米 2022BY(広島県神石郡)

うっとりと静かに、ボタン海老と不老泉による濃密な余韻に浸る皆さまを次なる魅惑へお連れする 3 皿目は、大騒ぎしたくなるような濃厚チーズリゾットです。

お米は、長野県の momoG Farm さんが丹精込めて育て上げる無農薬無施肥の「亀の尾」米。滋味深い日本酒の原料米として認知されることが多いですが、そもそもは食べるためのお米として人気を博した米種です。1983年(明治時代)に発見・生育、その美味しさは賞賛されて主に東北・北陸地方の様々なブランド米の祖となりました。米粒一つ一つがしっかりとし深い味わいを持つこのお米を、魚介のブイヨンと、フランスのコンテチーズでリゾットにします。そこに、ふんわり柔らかに蒸し上げた鮑と、鮑の肝ソースが輝きます。その見た目から想像できないほど、エレガントで華やかな香味を纏う鮑。亀の尾も、コンテチーズも、鮑も、みんなそれぞれの旨味を臆面もなく器の上で繰り広げてくるのです。

そんな大騒ぎのお料理を、出しゃばりすぎずに纏めてくれるのは「神雷」の青ラベル、広島県産「千本錦」を使用した純米酒です。穏やかで素朴な熟成感が心地よい純米酒を、じっくり57度くらいまで温めることによって、お米の味わいと赤葡萄のようなエレガント&リッチな香味を引き出します。冷酒でも燗酒でも「神雷」のお酒には独特な清涼感を感じます。大騒ぎ系の料理も妙に落ち着くのはそのせいかもしれません。


4. 個性派同士が妙にハマるペアリング

料理:ヤリイカ ピータン 山菜
日本酒:風の森 未来予想図Ⅱ~高温醗酵の世界 無濾過加水生酒純米 2023BY(奈良県御所市)

雪解けの野山にひょっこりを顔を出す山菜は、春の到来を知らせてくれるメッセンジャー。

4 皿目では、山菜と旬のヤリイカを、台湾産ピータンのソースでお召し上がりいただきました。ピータンを細かく刻むとあのツンとした香りは飛んでいき、美味しいところだけを楽しめます。アヒルの卵を発酵させたピータンと塩麹の発酵同士のコンビネーションは、まるで「蟹味噌+マヨネーズ」のような濃厚ディップソースとなります。ほろ苦い山菜ーコゴミとタラの芽ーと、甘くコリコリっとした食感のヤリイカと一緒にすることで、病みつき度合いもアップ。

変化球のような一皿には、変化球のような日本酒を。

「風の森 未来予想図Ⅱ~高温醗酵の世界 無濾過加水生酒純米 2023BY」は、奈良県産の「秋津穂」精米歩合 90%を使用して、一般的な日本酒造りのスタイルである「冬季の低温発酵」とは真逆の、「高温醗酵」で醸したお酒です。江戸時代より前は、夏の 30°C 近い温度帯でも日本酒は作られていたというそのスタイルが、もしかしたらこれからまた、新しい形として蘇るやもしれぬ、ということでの「未来予想図」。「風の森」の特徴でもある爽やかな果実香や自然な発泡感、奥行きを感じるお米の旨みに複雑性が増されたこのお酒の個性を存分に感じ取っていただくべく、デキャンタージュしてお出ししました。


5 皿目以降は、レポート後半に続きます。こちらからお読みいただけます。

「酒番 多田正樹@めでたし」第3回目は、2024年7月20日(土)21日(日)の 2 晩に渡って開催します。

今回のテーマはハーブ。
レモンタイム、シナモンバジル、スイートバジル、ローズマリーレックス、フェンネル、様々なミントたち、サラダバーネット、レモングラス、アニスヒソップ、カレープラント、ステビアなど、酷暑に負けず元気いっぱいのハーブのエネルギーを盛り込んだ新メニューが登場します。

イタリアン、フレンチ、アジアン、様々な料理ジャンルのアイディアにハーブを活用することで、夏の食材たちに新しい美味しさが生まれました。幅広い可能性を持つ日本酒によって、さらにドラマティックな展開となることでしょう。
初めての美味に出逢いに、ぜひお越しください!

日時 2024年7月20日(土) 18時、21日(日) 17時30分
会費 25,000円(お食事・日本酒・税サ込)
定員 各部上限 11席(カウンター7席、テーブル4席)
申込 めでたしの予約フォームから「2024年7月20日」あるいは「2024年7月21日」を指定し、メニュー「7/20・21 酒番 多田正樹@めでたし」を選択の上、必要項目をご入力ください。7月18日24時までご予約をお受けします。
*ご予約の際には、「お店からのお知らせ」「利用条件」をご確認ください。

◾️多田正樹さん (酒番/日本酒とうつわの案内人)
sakeペアリングがまだ一般的では無かった2000年頃より、料理毎に「銘柄」「温度」「酒器」を合わせる『和酒お任せ』のスタイルを開始。 その後、神楽坂『蒼穹』など会席料理店にて酒番を歴任。清閑な空間造りと骨董~現代作家の器での日本的演出を流儀とする。 「飲み手と料理を立て、穏やかに」が、酒えらびともてなしの信条。様々なジャンルの料理人や古美術ギャラリーとのイベントも開催。



◾️五嶋 千裕(めでたしシェフ)
2011年、兄・慎也と共に押上で飲食店をオープンし料理の道へ。2013年京島「ごでんや」、2015年香港へ移り「GODENYA Hong Kong」。日本・フランス・広東料理などの要素をとりいれたコース料理の1皿ごとに1種類の日本酒を温度・温め方・器を変えてペアリングしていくスタイルで話題に。 帰国後は赤坂「sansa」のシェフとしてクラフトビールのペアリングなどを手がけた。2020年、想定外の美味と遭逢するレストラン「めでたし」をオープン。

◾️タイムテーブル
7月20日(土)
17:45 開場・受付
18:00 開始
21:00 閉会

7月21日(日)
17:15 開場・受付
17:30 開始
20:30 閉会

*イベントは開始時間になりましたらスタートします。遅れずにご来店ください。

*ご予約時に、アレルギー食材をお教えください。お連れ様皆様にご確認をお願いいたします。当イベントは特別メニュー構成のため、食品アレルギー内容によってはご予約後にお断りさせていただくこともございます。

*会費は当日ご来店時に現金でのお支払いをお願いします。領収書をご希望の際は事前に宛名のご連絡をお教えいただけますとスムーズにお渡しできます。

*当イベントにおいては、テーブルあるいはカウンターのお席のご希望にはお応え出来ないこともございます。予約ページの設定上、カウンター席でのご予約でも、当日はテーブル席でのご案内となる可能性があります。あらかじめご了承くださいませ。

*ご予約のキャンセルや参加人数が減る場合、代わりの方を見つけていただけますと助かります。ご予約のキャンセル・人数の変更は、2024年7月12日(金)24時までにご連絡ください。それ以降のキャンセルや、ご連絡がない場合は料金の100%をキャンセル料としてご請求申し上げます。


Report on Sake Pairing Event with Mr. Tada(1/2)

On Saturday, February 23, 2024, we held a special sake pairing event with ”SAKE-BAN” Masaki Tada at Medetashi. The first event was held in December 2023, and this would be its second.

Although there were still occasional cold days, the event was held in the late winter when the footsteps of spring could be heard gradually.

This is a report on a pairing course of nine dishes and eight types of sake that evoke the arrival of spring.

■ Ark shell (AKAGAI) , scallops, green peas
SAKE : Yamaishi Junmai Ginjo Limited Direct Bottling Unfiltered Namagenshu Usunigori 2023BY (Yokkaichi, Mie Prefecture)

The first dish features youthful beans, which are also “seeds” that sprout and grow into new life as the weather warms up. The fresh green pea sauce is emulsified with rice bran oil and seasoned only with salt to bring out its sweetness and aroma. Snap peas with their crisp texture and fava beans are added to the sauce, making a total of three types of beans. The tender and bouncy scallops and the crunchy ark shell, each with their distinct texture, sweetness, and flavor, blend lightly with the green sweetness of the beans.

The sake is “Yamaishi Junmai Ginjo Limited Direct Bottling Unfiltered Namagenshu Usunigori” 2023BY from Ishikawa Brewery in Yokkaichi, Mie Prefecture. This sake, bottled directly after pressing, has a sparkling freshness, the refreshing quality of usunigori, and a pleasant ginjo aroma. It is already delicious on its own when it’s cold. By carefully warming it to about 40 degrees Celsius in a glass flask, the hidden flavors of the rice in this sake are brought out. 

Without compromising the delicacy of the ingredients, gently warming it enhances the flavors of the beans and shellfish, opening the course with a harmonious pairing of fresh dishes and fresh sake.


■ Botan Shrimp Marinated in “Tamagawa Stored Over the Summer”
SAKE : Furousen Kame-no-o Yamahai Junmai Ginjo Unfiltered Namagenshu 2023BY (Takashima, Shiga Prefecture)

After a refreshing start, it’s time for something impactful.

Large, fresh botan shrimp are marinated for several days in a marinade made with spices like star anise and sake – Tamagawa’s 2017 BY Yamahai Junmai Unfiltered Namagenshu, which had been stored at “room temperature” (scorching heat?) over the summer of 2018. The shrimp’s enchanting aroma and appearance elicited sighs from everywhere in the restaurant.

Though you are the one eating, it feels as if you are being consumed, as the exquisite, rich, and complex flavors envelop your mouth.

A gentle sake would not stand a chance. 

The representative full-bodied sake from Uehara Brewery in Shiga Prefecture, “Furousen Kame-no-o Yamahai Junmai Ginjo Unfiltered Namagenshu 2023BY,” is clear and rich without any aged flavors, boasting a perfect balance of acidity and a robust body. It was warmed to about 60 degrees Celsius in a tin chirori to bring out its full flavor and aroma, then allowed to cool before being served in a flat sake cup.

The union of rich, powerful food and sake in your mouth is a moment of decadent delight.


■ Abalone and Comté Cheese Risotto using Kame-no-o Rice
SAKE : Shinrai Blue Label Senbon Nishiki Tokubetsu Junmai 2022BY (Jinseki District, Hiroshima Prefecture)

The third dish, intended to carry you from the rich aftertaste of botan shrimp and Furousen to the next allure, is a vibrant dish with powerful flavors – Abalone and Comté Cheese Risotto using Kame-no-o Rice.

The rice is “Kame-no-o” rice, grown with great care and without pesticides or fertilizers by momoG Farm in Nagano Prefecture. Though often recognized as a sake rice, it was originally popular as a table rice. Discovered and cultivated in 1983 (Meiji era), its deliciousness was highly praised, becoming the progenitor of various brand-name rices in the Tohoku and Hokuriku regions. This deeply flavorful rice is made into risotto with seafood broth and French Comté cheese. Softly steamed abalone and abalone liver sauce shine in this dish. The abalone, with its elegant and fragrant taste, is not what you might expect from its appearance. Each element—the Kame-no-o rice, Comté cheese, and abalone—contributes its own robust flavor.

The dish is harmonized by “Shinrai” Blue Label, a junmai sake made with “Senbon Nishiki” rice from Hiroshima Prefecture. Warming this sake slowly to about 57 degrees Celsius brings out the rice flavor and an elegant, rich aroma reminiscent of red grapes. 

Whether served cold or warm, Shinrai sake has a unique refreshing quality, making even the most exuberant dishes surprisingly calming.


■Spear Squid, Peetan(Century Egg), Wild Vegetables
SAKE : Kaze no Mori Mirai Yosouzu(Future Prospects) II – The World of High-Temperature Fermentation Unfiltered Water-Added Namagenshu Junmai 2023BY (Gose, Nara Prefecture)

Wild vegetables peeking out from the thawing mountains herald the arrival of spring.

For the fourth dish, enjoy wild vegetables and seasonal spear squid with a sauce made from Taiwanese century egg. Finely chopping the century egg eliminates its sharp odor, leaving only its delicious essence. The combination of fermented century egg and shio-koji creates a rich dip reminiscent of “crab miso + mayonnaise.” The bitterness of wild vegetables—kogomi and tara no me—and the sweet, crunchy texture of the spear squid create an addictive combination.

This unique dish was paired with an equally unique sake.

“Kaze no Mori Mirai Yosouzu(Future Prospects) II – The World of High-Temperature Fermentation Unfiltered Water-Added Namagenshu Junmai 2023BY” is made from Nara Prefecture’s “Akitssuho” rice, polished to 90%, and brewed at high temperatures, contrary to the typical “low-temperature fermentation” of winter. This style, reminiscent of pre-Edo period summer brewing at temperatures close to 30°C, might represent a future revival, hence the name “Future Vision.” The sake, with its signature fresh fruit aroma, natural effervescence, and profound rice flavor, is decanted to fully showcase its complexity.


Dish 5 and beyond will follow in the second half of the report.

The third edition of this event will be held over two nights, Saturday and Sunday, July 20-21, 2024.

Next theme is “herbs”.
Lemon thyme, cinnamon basil, sweet basil, rosemary rex, fennel, various mints, salad burnet, lemongrass, anise hyssop, curry plant, stevia, and more will be featured in the new menu, which is filled with the energy of herbs that are full of vitality despite the extreme heat.

By utilizing herbs as ideas for Italian, French, Asian, and various other culinary genres, summer ingredients have been given a new delicious flavor.
The wide range of possibilities of sake will add an even more dramatic dimension to the menu.
Please come and enjoy the new taste of sake pairing!

Date & Time : Saturday, July 20, 2024 at 18:00, Sunday, July 21, 2024 at 17:30
Fee : 25,000 yen (including meal, sake, and tax)
Capacity: Maximum 11 seats per section (7 seats at the counter and 4 seats at the tables)
Application Please specify “July 20, 2024” or “July 21, 2024” on our reservation form, select the menu “7/20-21 酒番 多田正樹@めでたし”, and fill in the necessary information.


*Please check the “Notice from the restaurant” and “Terms and Conditions” when making a reservation.

投稿日: 5月 25, 2018

#17 Sake salon of the sake2020 project w/真澄Masumi

カテゴリー: Event / Seminar, Report

On 24th May, the 17th sake salon of the sake2020 project was held with Mr. Keith Forum from Masumi in Nagano prefecture.

This brewery was founded in 1662. The very famous yeast number seven that is now used by over 60% of japanese sake makers was discovered here.

We enjoyed a lovely presentation by Mr. Keith and 5 great Masumi sakes!

Especially NANAGO七號 , Junmai Daiginjo Yamahai super premium, was amazing!

 

投稿日: 4月 27, 2018

#16 Sake salon of the sake2020 project w/東光Toko

カテゴリー: Brewery, Event / Seminar, Report

 

On 26th April, the 16th sake salon of the sake2020 project was held with Mr. Kenichiro Kojima from Toko in Yamagata prefecture.

They are the 11th oldest sake brewery, established in 1957. They were unusually permitted to brew sake for the load and KAMI, spirit of Shinto, even under prohibition ordinance in the famine.

 

 

 

投稿日: 12月 14, 2017

Shochu & Awamori Seminar Report

カテゴリー: Event / Seminar, Report

【本格焼酎&泡盛とっておき講座~初級編~】
可愛くてパワフルで真っ直ぐで、その生き生きとしたオーラがますます輝かしい、葉石かおりさんが講師をされる「本格焼酎&泡盛とっておき講座~初級編~」がルミネ池袋のABCクッキングスタジオにて、12月13日に開催されました。

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